2013年 09月 15日
チュウジとハリオ
日本国内において、「チュウジシギとハリオシギは特徴のオーバーラップが多く、尾羽の枚数と形状でしか識別できない」と断じてしまう人がいるとすれば、おそらくその方は文献を読むのは得意かもしれないが、実際にはそれほど野外でジシギを観察していない、または十分な観察眼を持っていないのではないかと思わざるを得ない。

とういうのは、冒頭の言い方は多くの場合、香港での調査結果をもとに書かれた文献※からの引用、またはさらにその孫引ではないかと思うが、そもそも香港と日本の大部分では渡来する個体群が異なると思われ、識別の難易度は実際かなり違っている。私は昨年、香港と共通の個体群が渡来している可能性が高い石垣島で5日間ジシギ類を観察したが、チュウジシギとハリオシギの識別は確かにかなり難度が高く、特に限られた条件下では判断に迷う個体がよく見られた。しかしながら本州での事情は大きく異なり、ある程度経験・力量のある観察者が大きさ、プロポーション、模様、換羽状態などを総合して見れば、一目でチュウジシギと判断できるか、そうでなくともハリオシギでないことは確信できる、そして後ほど尾羽を確認してもその通り―というケースが割合からすれば圧倒的多数を占めている。また稀に記録されるハリオシギも、サイズの小ささ、尾の小さい寸詰まり体型、明るい羽色、換羽時期の遅さなどから、同地域の大半のチュウジシギとは随分とかけ離れた外観を呈していることが多い。

もちろん一部には難しい個体もいるのは当然だが、それをもって両種の識別を一般論として「尾羽の枚数と形状でしか識別できない」と決めつけるのはさすがにいくらなんでも乱暴すぎる議論。識別については慎重を期し、無理に結論を急がないことももちろん大事だが、一方で実践的な野外経験に拠らず机上の知識をなぞってものを言うことで、時に野外識別の可能性をいたずらに狭めてしまう危険性があることにも注意が必要と思う。

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チュウジシギ Gallinago megala 2012.9.11 沖縄県
石垣島で撮影したチュウジシギ幼羽(尾羽確認済み)。9月11日にして未だ完全な幼羽で、本州で見る大半のチュウジシギより明らかに換羽が遅く、羽色も明るいために色彩面ではハリオシギに酷似している。体型も本州のものほどハリオシギとの差が極端でない個体が多い傾向があるような印象も受けている。つまりこのような個体群をサンプルとして書かれた文献の内容を、本州での識別にそのまま持ち込むのは適切でない。

※Leader, P.J. & Carey, G.J. 2003. Identification of Pintail. Snipe and Swinhoe's Snipe. Brit. Birds 96(4): 178-198
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by Ujimichi | 2013-09-15 23:43 | ジシギ


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