2014年 02月 19日
「日本の野鳥650」のカモメ類について
先日平凡社から出版された「日本の野鳥650」(写真/真木広造  解説/大西敏一・五百澤日丸)を購入した。真木・大西両氏による前著の「日本の野鳥590」から掲載種、写真点数共に大幅に増え、日本の鳥のほぼ全てが網羅された素晴らしい図鑑なので、今後日本の写真図鑑の超スタンダードとして定着することは間違いないだろう。特に私の場合は日頃の行動範囲や観察対象が極端に偏っていて、例えば島嶼で近年記録された小鳥類や、通常陸から見られない海鳥類などの新知見には全くついて行けていないので、今後とも折に触れて大いに参考にさせて頂こうと思っている。また細かい点でいうと、前著590の時から、チュウジシギの特徴に初列風切の突出を挙げていないなどの優れた点もある。ただ一通り目を通したところ、カモメ類に関してはやはり気になる点が散見されたので、本書を使用する際の参考になると思うので以下に列挙しておきたいと思う。(分類についても日本産鳥類目録第7版に準拠しているためかなり古めかしい内容だが、ここでは主に識別に関する内容に絞った。)

p.327上の写真:「アメリカセグロカモメ成鳥冬羽 虹彩が暗色の個体」

  →カナダカモメ成鳥冬羽 初列風切がやや暗色の個体
頭の割に胴が小さめで、足が細く短い。このため一見した全体のバランスがアメリカセグロとは異なる。初列風切P10下面のミラーを除く基部寄りがやや淡いこと、初列風切上面にはみ出している白色部が多すぎることから、翼を開くとセグロカモメ型のパターンにならないと思われる。またアメリカセグロカモメで虹彩がここまで暗色に見える個体はかなり稀。

▼参考:カナダカモメ
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初列風切の暗色部が比較的多めの個体。P10下面も黒味の強い灰色なので、光線状態等によってはセグロカモメやアメリカセグロカモメと誤認される可能性がある。しかし大きさ、体型、飛翔時のP9のパターンなど、全ての特徴を総合的に見るとごく普通のカナダカモメ。

 p.327下の写真:「アメリカセグロカモメ成鳥冬羽 典型的な羽衣の個体」
  →アメリカセグロカモメ×シロカモメ(通称"Nelson's Gull")
こちらは全体のプロポーションや顔つきはカナダではなくアメリカセグロ的だが、初列風切の白色部が多すぎる/黒色部が少なすぎるので、シロカモメの関わった雑種と考えられる。アメリカセグロの特に北米西部の個体群は黒色部が多く、外から6or7枚目までしっかりあってセグロカモメ型のパターンになることが、特に日本ではセグロカモメ×シロカモメと区別するポイントとして重要。

▼参考:アメリカセグロカモメ
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この個体では初列風切の黒色部は外から7枚(P4)まである。これに対しP327下の個体では、5枚+6枚目にごく小さな黒点が辛うじてある程度で、5枚目(P6)の黒斑も細めで白い軸によって割れている。各羽先端の白斑も大きく、P10下面も白色部が大きすぎる。


p.330上の写真:亜種クムリーンアイスランドカモメ成鳥冬羽」
→通称「デカムリン」
キャプションでは撮影地が函館となっている(誤植?)が、写真を見る限り銚子に連続渡来している通称「デカムリン」と思う。この個体は近年では目瞼の色などから同定に疑問符がついているので、これがアイスランドカモメのページのトップに大きく掲載されてしまったのは少し残念。同個体について詳しくは4年前に書いたこちらの記事を参照して頂きたい。

p.331右上の写真:「カナダカモメ第1回冬羽」
カナダカモメとアイスランドカモメ亜種kumlieniとの中間個体/雑種?
全体にかなり淡色で、初列風切の羽縁が幅広く、三列風切も白色部が多い。特に北米東部であればむしろkumlieniの暗色個体とみなされる可能性は高い。そもそもこのあたりは連続的で明確な線引きが困難だが、少なくとも図鑑にカナダカモメ第1回冬羽として1点だけ掲載するにはもう少し暗色の個体が適当と思う。

p.332右上の写真:
「亜種キアシセグロカモメ(モンゴルセグロカモメ)」
→’タイミルセグロカモメ’ ('taimyrensis')の可能性大
4月の撮影で後頸に斑が少しあり、足が黄色い。秋・冬からの継続観察で初列風切の換羽が明らかに早いといった特徴が確認されていれば別だが、写真を見る限りタイミルの可能性の方が高い。

p.332右側中段の写真:「亜種キアシセグロカモメ(モンゴルセグロカモメ)」
’タイミルセグロカモメ’ ('taimyrensis')
590にも掲載された連続渡来個体。これまで見聞きしたところではこの個体の初列風切の換羽は遅いので、タイミルの大きな個体と考えるのが妥当と思う。この個体の特徴として初列風切の黒色部が8枚あることと体のサイズが大きいことが以前よく言われていたそうだが、黒色部が8枚出るのはモンゴル・ホイグリン・タイミルに共通してしばしば見られる特徴。大きさも性差や個体差が大きいので、実際はあまり参考にならない。また地中海に生息するmichahellisの可能性も以前は言われていたそうだが、元々分布から渡来の可能性はかなり低い亜種であることと、現在の知見から検証すると換羽時期や頭の斑の出方が異なるのでmichahellisではないと思われる。

▼参考:モンゴルセグロカモメ
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1月にしてほとんど頭が白く、嘴に赤斑と黒斑、足は淡いピンク~肉色、初列風切の換羽は完了し、黒色部は7枚目まである。モンゴルセグロカモメの識別に関しては80~90年代頃まではまだまだ情報量が足りず、世界的にも紆余曲折があったので、590の頃(2000年)の知見ではまだ仕方ない面はあるが、十余年経過した現在にもこのような典型的なモンゴルセグロカモメの写真が掲載されなかったのはカモメファンとしては残念なところ。



また、この淡いピンクの足を持つカモメの亜種和名を「キアシセグロカモメ」とする日本産鳥類目録第7版には違和感を持つ観察者は私も含めて多い。むしろ前出のmichahellisこそ足が鮮やかな黄色で、英名もそのものズバリのYellow-legged Gullなので、「キアシ―」は本来こちらに充てるのが相応しい和名だ。


p.336クロワカモメの解説:「カモメは嘴がやや細く、黒斑も太く明瞭
→「カモメは嘴がやや細く、黒斑も細く不明瞭
類似種の説明内容が逆になっている。

以上、「日本の野鳥650」のカモメ類に関して特に気になった点を書いたが、カモメ類に関しては実は有名な海外の専門書にすら間違いはあるのが現状。本書においてもどうやら大型カモメ類にとりわけ問題点が集中しているようで、これはこれまでの他の写真図鑑も概ね同様の傾向。むしろ全体として見れば圧倒的なボリュームと高い完成度を誇る最新の写真図鑑であることに変わりはないので、初心者からベテランまで、ぜひとも手元に置きたい一冊だ。

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by Ujimichi | 2014-02-19 19:08


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