2009年 04月 05日
ステレオタイプ
結構更新をサボっていたので少し長文を書いてみる。

以前からアイスランドカモメが出るたびにしばしば感じるところだが、日本のバードウォッチャーが一般的に持っているアイスランドカモメのイメージというのは、ごく狭い範囲の、或いは古い情報から作り上げられた、極めてステレオタイプで画一的なものになっている。そのため初心者・ベテランを問わず実際の見え方の多様さに全くついていけていない人が多い。

アイスランドカモメについて昔から言われてきた、サイズが小さい、頭が丸い、嘴が小さい、足が短い、初列風切が長い・・・といった特徴はもちろん原則的にはその通りなのだが、実際には見かけ上これらの各要素のうちのどれが強く出、どれがあまり出ないか、という組み合わせは個体や状況によって様々で、その結果一見した印象も極めて変化に富んでいる。これはもちろん本場の北米東部やヨーロッパの個体でも、これまで日本に出現した個体でも同様だ。この辺を理解するには、状況によって変化する要素に惑わされず、どんな状況でも共通するアイスランドカモメらしさみたいなものを的確に見抜けるようになる必要がある。

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例えばこの2つの画像だが、右はわかりやすい個体、左はわかりにくい個体と思う人が多いかもしれないし、むしろ左はアイスランドカモメであることすら気づかない人がいるかもしれない。確かに右の方が頭が丸く嘴が小さく、初列風切も長く見えるのでそう感じるのも無理はないのだが、ところがこの2つの画像は同一個体なのだ(―通称“2号”と呼ばれている最も出現率の高い個体)。この時は実際ずっと目で追っていたのだが、画像から模様を一つ一つ比べても同じ個体であることは容易に確認できるだろう。というわけで嘴の長さや頭の形などの印象がいかに変化して見えるかをじっくり見ていただきたい。(―ちなみにこの視覚的トリックは、実は昨冬の“メタボガモ騒動”とも共通する問題でもある。)

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こちらはたぶん誰がどう見ても右より左のほうが足が長いと感じるだろうと思うし、左はいわゆる“わかりにくい個体”だと思う人もいるかもしれない。ところがこれも実は左右とも同一個体(4号)なのだ。左は羽毛を極端に寝かせた状態のため、相対的に嘴や足が長く見えている。また鳥の脚は腿の全てと脛の多くの部分、膝関節、股関節が通常外からは一切見えないため、これらの部分の保ち方でも外から見た足の長さは変化しているものと思う。アイスランドカモメやカナダカモメの識別に際して、踵関節(―画像で膝のように見える部分)が身体に着いているかどうかを見る人がいるそうだが、状況を考慮せずに殊更そこだけ注目してしまうと全く見当違いな話になりかねないことは、この画像を見ても非常によくわかると思う。

こうした見え方の変化は一時的なものとは限らず、むしろ休息場所では右の画像のように、採餌ばかりしている場所では左のように延々見えているということも多い。その一方休息場所でも強風時や警戒時には左の画像のような印象に見えるのが普通だ。また寒冷地であればあるほど羽毛を膨らませている確率が高いので図鑑などの写真を見る際にここも注意する必要がある。そしてもちろん実際は休息時と活動時という単純な2パターンということではなく、頸の伸ばし方とか見る角度、周囲の個体との並び方とか光線状態とか背景、そしてもちろん個体差など、とにかく無数の要素が複雑に絡み合って時々刻々と印象が変化するわけだ。

つまりまずはこうした見かけ上の変化をよくよく整理して理解したうえで、それでもなお見えてくるその種らしさみたいなものを見極めていく必要がある。そのためにはやはりカモメを沢山見ることだが、単に数だけでなく一個体を継続していろんな状況で何度も繰り返し見ることも非常に重要になってくる。経験豊富な観察者は「一見してわかった」という言い方をよくするが、これはもちろん何もその場面だけ断片的に見て言っているのではなく、実はその背後に膨大な経験の蓄積があるというのが重要なところだ。

実は私も数十年前には、海外の図鑑等で上の左側の画像のような印象に見えるアイスランドカモメやカナダカモメを見かけると、「え?なんでこれが??」と少なからず混乱していた記憶がある。しかし毎年カモメを見ているうちにそのカラクリがごく自然に飲み込めるようになっていった。この冬のアイスランドカモメは前代未聞の当たり年だったので、来シーズンもこれが続くのか、ぱたりと見られなくなるのかは全くわからないが、興味のある方はぜひとも以上の点に留意して観察を継続してみていただきたいと思う。
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by ujimichi | 2009-04-05 15:22 | カモメ


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