2017年 10月 17日
1988年5月1日 神奈川県三浦市の “カリフォルニアカモメ” 再検証
1988年5月1日に神奈川県三浦市で父と観察した“カリフォルニアカモメ Larus californicus”(以下「本個体」)について近年の知見を元に再検証を行ったところいくつかの疑問点が浮上し、「カモメ L. canus kamtschatschensis 第2回夏羽の可能性が否定できないため種不明」とするのが妥当と考えるに至ったので、以下に要点をまとめてみる。

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この個体は観察当時、大型カモメとも中型カモメともつかない中間的な全体の印象、頭に対して体と翼が長く足が短い体型、灰緑色の脚、などの特徴からカリフォルニアカモメ第3回夏羽と判断した。現在写真を見返しても、カモメとするにはかなり違和感のある、大型カモメ的な印象を受ける。

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▲左はロサンゼルスで撮影したカリフォルニアカモメ成鳥冬羽。全体的なシルエットはよく似ている。

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しかし、今から29年も前の当時とはまるで比べ物にならないほど参考画像等が豊富に見られる現在、北米で撮られた多数の画像、また我々自身のその後の北米での観察経験と照らし合わせて再検証をすると、本個体はまず羽色の面で通常のカリフォルニアカモメのどの年齢にも今一つ一致しにくい組み合わせの特徴が見られ、かつその特徴がカモメ第2回冬羽/夏羽であれば問題なく一致することに気付いた。

さらに体型については、通常カモメでは頭に対して胴が短く小さく見えるため本個体とは印象がかなり異なるが、個体や状況によっては胴が意外に長大に見えるケースもあり、時には本個体と遜色ない比率のように見える画像等を見かけることもある。さらに本個体については口からテグスを垂らしていて嘴が若干開いた状態だった。観察当時はあまり気にしていなかったが、今写真を見直すと上背が盛り上がって見えることからも、ある程度大きな魚を飲み込んでいることで体型が変化し、より胴長なカリフォルニアカモメ的な体型に見えていた可能性も否定できないように思う。

羽色についてもう少し具体的に述べると、本個体では青灰色の肩羽と、褐色味を帯びた淡灰色の雨覆の境が明瞭で、ツートンカラーの上面に見える。このパターンはカモメ第2回冬羽では普通に見られるが、カリフォルニアカモメ第3回冬羽では今のところ確認できていない。また本個体の静止時に見える初列風切は黒褐色だが、光が当たるとやや明るい褐色にも見え、P10-P5までの先端部に明瞭な白斑はない(下の画像)。カリフォルニアカモメ第3回冬羽では通常この部分の黒味がより強く、各羽先端に白斑がある個体が多く、ほとんどこの白斑がない個体でも、P5については明瞭な白斑があるのが普通のようだ(すなわちより成鳥に近いパターン)。もちろん個体差や摩耗褪色も考慮する必要があり、また第3回冬羽のサンプル数が十分とは言えない面もあるので、カリフォルニアカモメでも似た見え方になる可能性も否定できないが、この点についても今のところカモメ第2回冬羽/夏羽の方により合致しやすいように見える。

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ではカリフォルニアカモメ第2回夏羽の可能性はどうかというと、上述のツートンカラーの上面、及び初列風切各羽先端の白斑がないこと、の2点では一致する。しかしながらカリフォルニアカモメ第2回冬羽/夏羽では尾羽が幅広く黒褐色で、次列風切も暗色帯を形成するのが普通のようで、この2点が合致しない。ただし中には冬季に尾羽を換羽して本個体に似たパターンが出ている画像があるため、尾羽と次列風切を早く換羽した第2回夏羽が本個体にある程度似る可能性も考えられるが、雨覆や初列風切を残して尾羽と次列風切がちょうどそのように換羽するかという疑問があり、また本個体は写真が不鮮明なため換羽状態の精査そのものが難しい。

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▲カリフォルニアカモメの第3回冬羽と第2回冬羽。このように第3回ではかなり成鳥に近いパターンになり、第2回では尾羽と次列風切が太い暗色帯を形成するのが普通のようなので、三浦市個体の上面のパターンはこのどちらにも完全には一致しない。

なお当時の現場での観察では、大雨覆の一部に細かい波状斑があったように記憶していて、これが明確であればカモメの可能性をほぼ否定できるが、この点は写真では残念ながら画質が不鮮明なため写っておらず、今となっては29年も前のことでもあるのでどの程度はっきりしたものであったのかの確信が今一つ持てずにいる。カモメとカリフォルニアカモメは、成鳥では嘴のパターンで、第1回冬羽では雨覆等の模様で容易に区別できるが、カリフォルニアカモメ第3回とカモメ第2回ではこれらの点が使えないことが本個体の判断を難しくしているといえる。いずれにしても本個体は体型の印象がカリフォルニアカモメに似るものの、羽色の面でカモメ第2回夏羽により合致する点が多いため、今のところ種不明としておくのが妥当と考えている。

本個体はこれまでカリフォルニアカモメとしてウェブサイトや「カモメ識別ハンドブック」で紹介しているため、観察当時の経験と情報量の不足から、判断がいささか拙速であったと思われる点はこの場を借りて率直にお詫び申し上げたい。ただしこうした先進的な識別については、その時点での情報量の範囲で識別し、状況が変わればその都度再検証するという作業によって発展する側面も確かにある。安全を期しての判断の保留と、未知の領域へ切り込むチャレンジ精神、この両者のバランスや力加減はなかなか難しいところだが、今後も大いに悩みつつも楽しみながら、より精度の高い識別を目指して行きたいと考えている。


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by Ujimichi | 2017-10-17 18:20 | カモメ


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