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2007年 12月 11日
カモは元々太って見える
この問題にあまりいつまでも関わっていられないのでこれでひとまず最後にするつもりだが、ここでは公平を期して私が個人的にカモの餌付けに関して問題がありそうだと感じることや、この問題についての自分なりの考えをもう少し綴ってみる。

カモは元々太って見える_a0044783_1458197.jpgとりあえずカモの餌付けに関して私がよく気になるのは、鳥自身というよりもむしろその場所の環境との兼ね合いだ。例えば、コンクリートプールに近いような単調な環境の、しかも狭い池で大量の餌付けが行われ、池面をびっしりと埋め尽くすほどのカモがひしめいているような状況というのは、1980~1990年代の不忍池の動物園内の池では確かに常態化していた。あの状況だと、あれだけの数の鳥が池内に排出する糞の量と池自身の浄化能力の乏しさということをちょっと想像するだけでも、他の生物には極めて住みにくい環境だろうと思えるし、確かに健全な自然環境とは程遠いものだったようには感じる。[写真は1990年11月の上野不忍池(動物園内池)の様子。画面奥までホシハジロやキンクロハジロがびっしり埋め尽くしているが、このような過密状態は現在は全く見られない。]

また、カモ同士の関係というところでいうと、オナガガモのように餌付きやすく、エサの奪い合いに強い種だけが優遇されてどんどん増え、コガモのように餌付きにくく争いに弱い種が追いやられてしまうということがある。まあコガモはコガモで餌付けの行われていないちょっとした小河川や小池のようなところをうまく利用しているのをよく見かけるし、そのあたりは適当に住み分けていればさほど問題はない気もするのだが、しかしもし仮に全国どこもかしこも隈なく過剰な餌付けが流行してしまうと、さすがにかなり問題はあるのではないかという気はする。つまり、特に単調な環境の池等で過剰な餌付けが常態化すると、その場所は様々な生物が関わりあって暮らす自然環境ではなく、単なる(特定のいくつかの種の)カモの餌やり場、養殖場(?)に限りなく近い環境になってしまうということが言えると思う。

ただ、そういったことを考え合わせても、私はそれらがあらゆる場所で一律かつ高圧的に餌付けを止めさせるだけの根拠になりうるのかどうかについては極めて懐疑的だ。もちろん、餌付けが固く禁止され、自然本来のままの生態系の保全を最優先にした保護区のような場所というのもあってよい、というかむしろあるべきだと思うのだが、その一方で、ほどほどであれば餌やりも容認されるような、比較的自由で開放的な都市公園というのもある程度あってよいのではないか?と私は思う。もちろんこの辺に関してはきちんとした事実認識に基づいた情報があれば参考にさせていただき、それによって柔軟に考えを変える用意があるが、いずれにしても、護岸を自然なものに作り変えるとか、それに伴って植生の回復を試みるとか、外来魚を排除するとか、餌付けを殊更槍玉に上げるよりも他に都市公園で自然環境の回復のためにできることは沢山あるように思う。

近年、不忍池ではカモの数も以前から比べるとまさに激減といっていいほど減っているし、植生の回復が図られている部分もあり、理想的とは言わないものの私にはそれほどどうしようもなく不健全な状態にあるようには見えない。餌付けを善行と信じ大量の餌を撒く人に対し、あくまで正しい事実認識のもとに、「考えられる問題点を材料として提示し考えてもらう」という程度なら私も十分理解できるのだが、“自粛”や“防止”といった曖昧な言葉でカモフラージュしつつ、基本的な事実認識すら不十分なまま、「餌付けは悪」と決め付けたような言い方で一律に、あるいは高圧的にエサやりを止めさせようとするのはやはり違うのではないか、という気がする。ここは拙速にルールめいたものを作ることに飛躍するのではなく、今一度「正確な事実関係の把握」という最も基本的なところに立ち返り、「本当に餌付けは悪なのか?」「悪いとすればどの程度、どんな風に悪いのか?」も含めて全てを一から冷静に考え直すべきだろうと思う。

我ながらいささかしつこいとは思うのだが、以下は先日千葉県のS干潟で撮影したカモの画像。

カモは元々太って見える_a0044783_11451879.jpg

カモは元々太って見える_a0044783_1252510.jpg
ヒドリガモとオナガガモの群 2007.12.9 千葉県

「餌付けでこんなに太ってしまいました」「下腹にたっぷり贅肉がついている」などと言われたら世間の大半の人が信じてしまいそうな、見るからに丸々とした姿なのだが、実はここでは餌付けは行われていないのだ。まあ厳密に言うとここにいるオナガガモやヒドリガモの中には餌付けの行われている都市公園と行き来がある個体が混じっている可能性もないとは言えないのだが、少なくともこのアメリカヒドリやウミアイサは餌付けとは無縁と考えてよいだろう。アメリカヒドリは浅瀬でアオサを食べたり干潟で休んだりしているのを2時間ほど観察したのだが、その間飛んだのは人が干潟に侵入した時の一回のみ、しかも数メートルの高さに飛び上がっただけですぐ降りてしまった。ウミアイサは20分ほどの観察だが、飛んだところは確認していない。カモはもともと太って見える体型をしているし、そんなに頻繁に飛ばないのは普通のことなのだということを、一般の方には基礎的な知識として知っておいていただきたいと思う。

私もこの問題にいつまでも関わっていたくないのでこれでひとまず区切りをつけるつもりだが、件の「餌付けで太りすぎたカモ」なる言説はどうも既にかなり新聞やテレビで繰り返し流されてしまったようで、また巷ではそれを鵜呑みにしたかなりヒステリックな餌付け叩きの言動が恐ろしいまでに蔓延しているようだ。当ブログをご覧になっているバードウォッチャーは冷静に現実を見極められる方が多いと思うので、関心のある方は今後もぜひ継続して注目し、またもしも可能であれば一人一人の考えに基づいて何か有意義なアクションを起こして頂けたらと思う。

※“エサやり防止キャンペーン”関連についてのエントリは専用カテゴリにまとめました。今後は右の“エサやり防止キャンペーン”カテゴリからご覧ください。
by ujimichi | 2007-12-11 11:46 | 餌やり規制問題について


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