1 2014年 04月 07日
再び「比べて識別 野鳥図鑑670」 関連の話題。
まず上の2つの画像を見て頂きたい。これを見て「右の個体の方が足が長い」と思った方は、ひょっとすると日頃からカモメ類の見方を大きく誤っているかもしれないので、以下の文章は是非とも読んでいただきたいと思う。 というのもこの2つの画像、実は同じ日に同じ場所で撮った同一個体※だからだ。左は14時42分、右は13時52分の撮影で、この間一度も目を離していないし、そもそも似た個体はいないので同一であることは100%確実。1羽のカモメの見た目は、姿勢や羽毛の状態だけでこれほど劇的に変化するという事実をまず理解して頂きたいと思う。 もう少し詳しく説明すると、左の画像は水浴び後の羽繕いの最中で、腹部の羽毛を膨らませているために、脛(すね/tibia)が隠れて足が短く見える状態。右は浅瀬で活発に採餌中で、腹部はもとより全身の羽毛をピタリと寝かせ、脛を突き出しているために足が長く見える状態だ。 カモメ類はこのように、羽繕い/休息時よりも採餌中/緊張時の方が、また寒冷地よりも温暖な地域の方が、羽毛を寝かせていて足が長く見えるという現象が顕著にみられる。特に波打ち際などで足が水に浸かる場所での採餌中には、腹が水面に付くのを嫌うのか理由は定かではないが、足を非常に長く突き出して動き回っていて、一見全く別の鳥のように見えることもよくあるので注意が必要。この辺りは一個体をある程度きちんと追跡観察していればわかることだが、カモメ類の体型を見る際の基本的な注意事項といっていいだろう。 ![]() なおかなり以前にBirder誌上で森岡照明氏が、銚子で撮影されたアイスランドカモメ(「日本の野鳥550水辺の鳥」掲載の個体)を検証し、一緒に写っているセグロカモメとの跗蹠長の比較などからアイスランドカモメとの結論を導かれていたが、これは足の長さの見方という意味では至極真っ当なアプローチと言えると思う。 ところが最近出版された「比べて識別 野鳥図鑑670」では、カナダカモメのページにおいて、腹部の羽毛を極度に膨らませた個体の写真に「足の短い個体」という説明がなされ、腹部の羽毛を寝かせている個体の写真には「足の長い個体」という説明が加えられているが、この説明の仕方は言うまでもなく全く間違っている。これでは著者の方は上述のような状況による変化をまるで理解していないように見えてしまうし、何よりも読者が実際の野外観察でこの本の写真と説明に従ってしまうと、同一個体がその時々の状況によってコロコロと別個体(または別種)と判断されてしまいかねず、図鑑としては大変問題のある記述と感じざるを得ない。 また同様にシロカモメのページでも、明らかに腹部の羽毛を膨らませた写真を、足が短く初列風切が長くてアイスランドカモメと誤認されるタイプ―というような説明をしているが、無論これも「タイプ」でもなんでもなく、そういう「状態」でしかないことはここまで書いたことからもよくわかると思う。もちろん海外の図鑑等の計測値からも、カモメ類はどの種も跗蹠の長さ自体にもかなり個体差があるのは事実だが、それと上述のような脛の見え隠れによる見かけ上の長さの変化を混同してはいけない。「極力条件を揃えて比較する」というのはカモメ識別に限らずものの見方の一番の基礎。まして「識別」をタイトルに掲げた図鑑を執筆するのであれば、無用な混乱を助長しないためにもこうした基本的なところをもう少し勉強して頂きたかったと思う。 ■関連記事 ※冒頭の画像は通称“2号”個体。2009年に見つかったkumlieniタイプの個体のうちの2個体目という意味でこう呼ばれている。2009年時点ではアイスランドカモメ亜種kumlieniと考えられた が、後年の継続観察によって、初列風切のパターン からカナダカモメとの中間個体/雑種と見るのが妥当と判断した。下は参考に冒頭と同じ画像の背景を切り抜く前の状態。 ![]() ■
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by Ujimichi
| 2014-04-07 19:00
| カナダカモメ
2009年 04月 05日
結構更新をサボっていたので少し長文を書いてみる。
以前からアイスランドカモメが出るたびにしばしば感じるところだが、日本のバードウォッチャーが一般的に持っているアイスランドカモメのイメージというのは、ごく狭い範囲の、或いは古い情報から作り上げられた、極めてステレオタイプで画一的なものになっている。そのため初心者・ベテランを問わず実際の見え方の多様さに全くついていけていない人が多い。 アイスランドカモメについて昔から言われてきた、サイズが小さい、頭が丸い、嘴が小さい、足が短い、初列風切が長い・・・といった特徴はもちろん原則的にはその通りなのだが、実際には見かけ上これらの各要素のうちのどれが強く出、どれがあまり出ないか、という組み合わせは個体や状況によって様々で、その結果一見した印象も極めて変化に富んでいる。これはもちろん本場の北米東部やヨーロッパの個体でも、これまで日本に出現した個体でも同様だ。この辺を理解するには、状況によって変化する要素に惑わされず、どんな状況でも共通するアイスランドカモメらしさみたいなものを的確に見抜けるようになる必要がある。 ![]() 例えばこの2つの画像だが、右はわかりやすい個体、左はわかりにくい個体と思う人が多いかもしれないし、むしろ左はアイスランドカモメであることすら気づかない人がいるかもしれない。確かに右の方が頭が丸く嘴が小さく、初列風切も長く見えるのでそう感じるのも無理はないのだが、ところがこの2つの画像は同一個体なのだ(―通称“2号”と呼ばれている最も出現率の高い個体)。この時は実際ずっと目で追っていたのだが、画像から模様を一つ一つ比べても同じ個体であることは容易に確認できるだろう。というわけで嘴の長さや頭の形などの印象がいかに変化して見えるかをじっくり見ていただきたい。(―ちなみにこの視覚的トリックは、実は昨冬の“メタボガモ騒動”とも共通する問題でもある。) ![]() こちらはたぶん誰がどう見ても右より左のほうが足が長いと感じるだろうと思うし、左はいわゆる“わかりにくい個体”だと思う人もいるかもしれない。ところがこれも実は左右とも同一個体(4号)なのだ。左は羽毛を極端に寝かせた状態のため、相対的に嘴や足が長く見えている。また鳥の脚は腿の全てと脛の多くの部分、膝関節、股関節が通常外からは一切見えないため、これらの部分の保ち方でも外から見た足の長さは変化しているものと思う。アイスランドカモメやカナダカモメの識別に際して、踵関節(―画像で膝のように見える部分)が身体に着いているかどうかを見る人がいるそうだが、状況を考慮せずに殊更そこだけ注目してしまうと全く見当違いな話になりかねないことは、この画像を見ても非常によくわかると思う。 こうした見え方の変化は一時的なものとは限らず、むしろ休息場所では右の画像のように、採餌ばかりしている場所では左のように延々見えているということも多い。その一方休息場所でも強風時や警戒時には左の画像のような印象に見えるのが普通だ。また寒冷地であればあるほど羽毛を膨らませている確率が高いので図鑑などの写真を見る際にここも注意する必要がある。そしてもちろん実際は休息時と活動時という単純な2パターンということではなく、頸の伸ばし方とか見る角度、周囲の個体との並び方とか光線状態とか背景、そしてもちろん個体差など、とにかく無数の要素が複雑に絡み合って時々刻々と印象が変化するわけだ。 つまりまずはこうした見かけ上の変化をよくよく整理して理解したうえで、それでもなお見えてくるその種らしさみたいなものを見極めていく必要がある。そのためにはやはりカモメを沢山見ることだが、単に数だけでなく一個体を継続していろんな状況で何度も繰り返し見ることも非常に重要になってくる。経験豊富な観察者は「一見してわかった」という言い方をよくするが、これはもちろん何もその場面だけ断片的に見て言っているのではなく、実はその背後に膨大な経験の蓄積があるというのが重要なところだ。 実は私も数十年前には、海外の図鑑等で上の左側の画像のような印象に見えるアイスランドカモメやカナダカモメを見かけると、「え?なんでこれが??」と少なからず混乱していた記憶がある。しかし毎年カモメを見ているうちにそのカラクリがごく自然に飲み込めるようになっていった。この冬のアイスランドカモメは前代未聞の当たり年だったので、来シーズンもこれが続くのか、ぱたりと見られなくなるのかは全くわからないが、興味のある方はぜひとも以上の点に留意して観察を継続してみていただきたいと思う。 ■
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by ujimichi
| 2009-04-05 15:22
| カモメ
1 |
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